愛しの☆マイマスター5
TOPINDEX BACK NEXT
ちょっと不思議なお客様ですよ、マスター
− 1 −
 こんにちは。マスターのメイド兼枡田探偵事務所助手の悦子でございます。本日もお日柄良く絶好の方向日和……と、マスターにも聞こえたようです。これは間違いなくインターホンを鳴らす音ですね。やはり日に日に知名度を増していく探偵事務所、お客様も絶え絶えながらいらっしゃいます。
 お待たせしてしまっては失礼に当たります。お茶の準備を中断し、私はお客様をお迎えにあがることに致しましょう。マスターはアホみたいにゲーム――お仕事前の息抜きに勤しんでおります故。

「はい、お待たせしてしまいまして申し訳ありません……と、どうしました、お嬢さん? ――ええ、探し物から調べ物まで何でも行っている探偵事務所のようなものですが。――はい、依頼ですね。それではお母様かお父様は――――え、ええ? しょ、少々お待ちくださいませ。え、ええと、美味しいキャンディーですよ、舐めてお待ちください」

 一見どこにでも居るようなワンピースの似合う可愛らしい女の子が戸口におりました。ですがこれは一大事です。只ならぬ事態です。
 パタンとドアを閉め、一旦玄関内へと思わず引っ込んでしまいました。不肖メイドの私、悦子と言えども驚きを隠せません。ここはやはりマスターへ相談するしかないでしょう。
 私の一存で決められるような依頼主ではなさそうですので、やはりここはマスターの指示を仰ぐべきところでしょう。依頼内容はまだ聴いていませんが……。

「マママママママスマスマスマス」
「だから、誰が魚類だ。って、お客さんじゃないの? それとも新聞か何かの勧誘?」
「コホン、取り乱しました、申し訳ありません。勧誘でなくお客様なのですが……」
「んじゃ通したら? っていうか、わざわざアタシに言わないでいつもならそのまま通すのに、どったの?」
「え、ええとですね、マスター。驚かないで聴いてください。お客様なのですが、ちょっと普通と違うお客様のようなのです」
「面倒な客? そういうのでもとりあえずは通すのに……一体どんな客なのよ、今日のは」
「俄かには信じられないかもしれませんが……幽霊だと仰っています。マスター、私幽霊を目撃してしまったのは初めてで……塩を撒くべきでしょうか? に、日本酒でお清めを……」
「……こんな真昼間から幽霊とか。っていうか、悦子って幽霊見えるんだ……アタシだって見たこと無いのに」
「見えても困ります。ま、マスター、如何なさいましょうか。やはりここはこのまま居留守を……」
「もう1回出てるんだから居留守なんて使えないでしょ。仕方ない、アタシが様子見てくるから悦子はお茶の準備でもしてなさい」
「ま、マスター、お、お気をつけて。このお守りをどうぞ。昔神社で買ったものなので効果は抜群のはずです」
「……安産祈願のお守りをなぜ持ってるのよ。まあ、良いじゃない、何事も経験経験。んじゃお茶よろしく」
「は、はい。マスター、お気をつけて……5分で戻らなかったら私は部屋に閉じこもりますよ……」
「はいはい。好きになさい」

 マスターがすっと席を立ち、私の代わりに玄関のほうへと歩みを進め始めます。幽霊という概念的な存在にマスターはどう立ち向かい向き合うのか、心底心配をしながら私は台所へ向かいお茶の準備と相成ります。幽霊なんてテレビの中だけの出来事かと思っていましたが、いざ遭遇してしまうと思った以上にはっきり見えてしまうものなのですね。
 ともあれ、マスターからの命であるお茶の準備を致しましょう。お茶にお茶菓子、それに幽霊さんが喜びそうなものといえば…………。

「そそそそそそそそ粗茶ですが、どどどどどどどどうぞ」
「……悦子、動揺しすぎ。お菓子も好きに摘んで良いですからね。えーっと……幽霊の……何さんって言うんでしょうか?」
「マスター、もしかすると長年死んで生きてきてとんでもない年上かもしれませんよ。もっと敬語で話さないとたったたたった祟られてしまうかもしれませんよ」
「それもそうかもしれないわね。っていうか悦子、十字架ににんにくって幽霊じゃなくない? その頭に付けてるお札も今さっき急いで書いたヤツでしょ、たぶん」
「ねねねねねねんには念を入れようかと思いました。はっ!! わ、私は人間ではないのでとりつけないのかもしれませんよ!? どうなんでしょう!?」
「知らないわよ、そんなことは。って、笑ってくれてるんだから悪い幽霊じゃないでしょ。いつもこんな感じなんです、気にしないでくださいね。――あ、なるほど、お名前はレイコさんと仰るのですね」
「な、な、な、なんとぴったりなお名前ですね。何故か一気に親近感を覚えずには居られません。レイコさんでしょうか、レイコちゃんでしょうか、レイコ殿でしょうか、レイコ様でしょうか、どのような呼び方が宜しいのでしょうか」
「……『朕は〜』とか言い始めたらどうしたらいいの……――あ、レイコちゃんって呼ばれてるんですね。それじゃあ……お客様に失礼かもしれませんが、レイコちゃんと呼ばせて頂きます」
「クライアントを『ちゃん』付けで呼ぶというのも斬新ですね。言われなければ幽霊だとは思いませ……はっ! 気に入って祟るならば見目の近いマスターのほうが宜しいかと思います」
「かわいいし祟られてご利益があるなら大歓迎だけど。って、話が横道に逸れすぎた。レイコちゃん、ここに来たということは何らかの依頼ですよね? 探偵事務所ってことはご存知そうですし」

 幽霊特有なものなのか、表情は乏しいですが可愛らしい年相応の女の子にしか見えないレイコさんです。『ちゃん付け』は私にはハードルが高いので通常運転で。お茶を啜り、気に入ったのかチョコ貸しによく手が伸びていたりします。
 マスターと私の遣り取りのどこにそのような要素があるのかは皆目検討も尽きませんが、マスターと私たちを眺めて浮かぶ笑顔も可愛らしいものです。幽霊というのも忘れてしまいそうなほどです。
 しかしながら現物を直にこの目で拝見したのは初めてではありますが、時代も進歩した所為か、本当に仰って頂かなければ幽霊であると気付かないところでした。
 きちんと足も地についておりますし、靴もきちんとお脱ぎくださいましたし、ドアを擦り抜けることも無く開閉し入室致していただけましたし、お茶もお菓子も召し上がる。
 各種スキャンをかけてみても体温から心音まで、何から何まで揃っておいでです。幽霊もここまで来てしまうと怖さも半減というもの。しかしながらまだまだ油断は出来ませんが。

「――ふむ、親戚が話しているのを聴いて自力で調べて来たんですね。いつの間にかそこそこ有名になったもんだなー、悦子」
「ええ、なぜか動物探しの依頼が増えたように感じられますが、途切れることなく依頼が舞い込むのは良いことかと思いますね」
「ええと、それでは依頼をお伺いしましょう。探し物から情報収集まで、ある程度のことはお受け出来ると思います」
「マスターに掛かってしまえばどのような難事件もあっという間に解決ですからね。――――人探し、ですか。それならば得意分野に入りますが、一体どちらさまを?」
「――なるほど。お父様とお母様を探して欲しい、ということですね。構いませんが、いろいろと伺わなければならないことも多いですが、宜しいでしょうか? 悦子、受けて問題ないわよね?」
「ええ、マスターに従います。ですがあまり幽霊がたくさん出てくるようであれば……その……レイコさんみたいに可愛らしい幽霊ばかりとは限りませんので……」
「そのときは徳の高いお坊さんでも探してあげるから、そういうことでオッケーってことね。と言うわけでレイコちゃん、お話、伺いましょうか」
「それならば安心です……ね? それではレイコさん、私のほうからいくつか質問させていただきますので、お答え頂ける範囲でお答え頂くとお仕事が捗ります故」

 クライアントである幽霊のレイコさんも、最初こそ少し緊張気味ではありましたが、話を伺うにつれて表情も大分和らぎリラックスした雰囲気になることが出来ているようです。動物に関してもですが、どうやらマスターと私はお子様にもウケが宜しいのかもしれません。
 そして本題の依頼のお話です。幽霊というと長生きだとばかり――死んでいるので長死というべきでしょうか、というイメージがありましたが、そうでも無いようです。幽霊になられたのは極最近だということでした。
 お家に帰ると誰も居らず、親戚のお婆様のところでお世話になっているとのこと。私どもの話は風のうわさで偶然耳にしたようです。そして一応、生前居住なさっていた場所の住所等も教えていただけました。悲しそうな表情に胸も痛みましたが、これも依頼遂行のためです。
 最近ではあってもどれぐらいの日数が経過したのかは不明というのは、やはり幽霊である故かもしれません。まだ幼い故、というのも考えられないことではないとは思いますが。
 それでも必要最低限の情報は得ることが出来ました。これだけ情報があれば、時間も掛からずに依頼は完了することが出来るでしょう。はてさて、お子様にはなかなか言い出しにくいことではありますが、私もお伝えお伺いせねばならないこともあったことを思い出しました。

「ええとですね、レイコさん。なかなか言い出しにくいのですが、報酬の提示をさせて頂こうと思うのですが――――持ってきているのですか? それは有り難い限りです。とりあえずはレイコさんの手持ちを――――ま、マスター、い、如何致しましょう、か?」

 レイコさんがごそごそと小さな鞄から可愛らしいがま口の財布を私に差し出してくれましたので、それを開けてみると中には色とりどりのおはじきたちが。確かに綺麗なものではありますが……。

「どれ、悦子、パス。おっ、こんなにいっぱい集めるの、大変だったんじゃないの? ――そっかそっか、お母様に貰った宝物なのね。うん、でもこんなにだと多いからアタシと悦子で1個ずつで良いかな? ねえ、悦子?」
「ま、マスターが良いと仰るのならば私もメイド、従うしか御座いませんが……。生々しい話は控えるべきなのでしょうが、夕飯のランクが1段下がることとなりますが……」
「べ、別に良いわよ、それくらい。悦子がそこまで言うならアタシは断っても良いのよ? ただ、そのあと祟られても知らないけど。――あ、ううん、ちゃんとやりますよー? ねー、メイドのお姉ちゃん?」
「た、たったった…………お、お姉ちゃんですか!? それならば私、悦子、メイド姉として奮起しないわけにはいきませんね!! お引き受け致しましょう、喜んで!!」
「悦子って、たまによくわかんないわね。ということでレイコちゃん、お引き受けします。そんなに時間掛けずに多分報告が出来ると思いますので。ええと……今日は午後も回っているし、明日からになりますけど」
「情報がかなり揃っているので2、3日といったところでしょう。進捗状況が気になるようでしたら、明日もお越し頂ければ経過等の説明を致すことは出来ます」
「気になるだろうし、明日も暇であれば遠慮なくどうぞ。そうだ、レイコちゃん、今日はお姉ちゃんお休みだけど良かったらちょっと遊んでいかない? ゲームとかいっぱいあるよー」
「ま、マスター、レイコさんにも予定と言うものが……と、どうやら遊んで帰って問題無いようですね。親御さんにご連絡……は必要ありませんか。マスター、あまり遅くなると幽霊といえども帰り道は危険だと思いますので」
「わかってるわかってる。大丈夫大丈夫。よーし、いつも悦子ばっかり相手だから、今日はがんばるぞー。はい、レイコちゃんコントローラー」
「……それでは私は家事とレイコさん関連の情報収集を行っておくと致しましょう。それでは……と、お茶とお菓子、そちらに運んでおきますね」
「ありがと」

 お茶を新たに注ぐためにキッチンへ。マスターにはマスターなりの考えがあってのことなのでしょう。私は従者として大人しく従うのみ。そういえば、最近の幽霊さんはお茶もお菓子もしっかりと召し上がるのですね。
 マスターとレイコさんの楽しそうな声がキッチンまで届いてまいります。まるで同世代の女の子と遊んでいるかのような、楽しげで賑やかな声です。
 くるりと振り返ってみれば、高さの殆ど変わらないふたつの頭が楽しげに揺れていたりもします。マスター、さすがです。いろいろな意味で。
TOPINDEX≫[ WEB CLAP ]
まろやか連載小説 1.40d