愛しの☆マイマスター5
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ちょっと不思議なお客様ですよ、マスター
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「それではレイコさん、お気をつけて。寝過ごして乗り過ごさないようにしてください」
「また明日ねー。今日は楽しかったよー、ありがと。ん? どうしたの――あ、依頼の報酬ね。確かに受け取ったからどんど任せて!!」
「ありがとうございます。6つも頂いたのならばこれはもう頑張らないわけにはいきませんね。マスターと遊んで頂いてこちらこそ報酬をお支払いしなければいけないほどですのに。レイコさんとてもよく出来た幽霊さんです」
「……否定しにくいわね。あ、バスきた」

 夕暮れ前のバス停にバスが定刻通りにやってきました。ドアが開き、バスに乗り込むレイコさん。何故かほんのりと寂しそうに見えてしまうのは、ご両親と離れ離れになっている所為でしょうか、それともマスターとの時間が楽しすぎたのでしょうか。
 運転手さんが乗るのかと言うような顔でこちらを伺っていたので、首を横に振るとバスのドアは音を立ててしまってしまいました。
 少しずつ動き出すバスの、私たちが見える位置の椅子に腰掛け手を振るレイコさんに応えて手を振るマスターと私。そしてバスはあっという間に見えなくなっていくのでした。
「さーてと、アタシたちも帰ろっか。まだちょっと明るいし、悦子、買い物とかあるんじゃないの? 付き合うわよ?」
「ありがとうございます。ついでに猫さんたちのところへ寄りましょうか、マスターが宜しければ、ですが」
「わかってるじゃない。さーて、今夜はどれくらい質素な食事になるのかなー。栄養のバランス偏っちゃうんじゃないかなー」
「問題ありません。2,3日で済むと思われますので、想像以上に豪華になると思われます。ところでマスター、レイコさんについては何か聞き出せたり致しましたか?」
「んー、それは歩きながら話す。お腹空いてきたし、早いとこいろいろ済ませて帰るぞー」
「はい、了解いたしました。それでは参りましょう」

 夕飯の献立とマスターのお話を伺いながら商店街のほうへと足を進めます。夕焼け前の影が茜色に染まるようなこの時間帯をマスターと歩く、本当に贅沢の極みです。
 マスターに手渡して頂いたおはじきが3つ、太陽の光を受けて輝かしい宝物に見えたような、そんな気も致しました。



 さて、本日よりレイコさんの依頼の件で動くことと致しましょう。本日の予定はレイコさん関連の住所を伺ってみることです。下調べも済んでおりますので、伺ってお話を伺うほどならばすぐに済むでしょう。
 出発予定時刻まで30分程度。いつものようにマスターはテレビゲームと睨めっこをしています。大好きなシリーズの最新作が発売されてからはいつもこの調子ですが、楽しそうな姿を眺めるのも、そして何より私もゲームのストーリーが気になります故、仕方の無いことです。
 しっかり定刻まではセーブをして辞めていただけますし、私のほうも準備は整って御座います故、ゲーム鑑賞を楽しむと致しましょう。はてさて、一体あの謎の敵キャラは味方としてパーティーに入って頂けるのでしょうか……。
 膝を折り腰を下ろそうとしたまさにそのとき、私の耳に飛び込んできたその音は――――


「……悦子、お客さん。チャイム鳴ってるわよ」
「……はい。人生そう上手くいかないものですね。ロボなのでロボ生でしょうか。それとも従者なので従生……」
「これぐらいで人生について考えるなんてどんだけスコアラーなのよ。手、離せないから悦子お願い」
「畏まりました。マスター、スコラは哲学ですがスコアは点数……なんでもありません、では応対してまいります」
「ほいほい。今日中な急ぎの依頼だったら断っておいてー」
「かしこまりました」

 経験上、物事は重なるときはとことん重なっていくものです。このようなタイミングでの訪問ということは、お断りしにくい依頼の可能性も御座います。
 はてさて、どうにか直近でない依頼であることを祈りつつ、玄関へと向かうことと致しましょう。今、ストーリー的に凄まじく良いところなのですが……。

「はい、こちら枡田探偵事務所です。お待たせ致しました……っと、これはこれは、レイコさんではありませんか。おはようございます。私どもはこれからご依頼の件についてのお仕事を――いえ、お邪魔ではありません。出発までの時間で宜しければ。あまり時間が無さそうなのは心苦しいですが……。――はい、それではどうぞ。マスターはゲームをなさっていますよ」

 これはこれは予想だにしていませんでしたが、本日もクライアントのレイコさんがお越しになられました。少々タイミングが宜しくはありませんが、年齢的に気になって居ても立ってもいられない、と言うのは理解出来ないこともありません。
 玄関よりお通しすると昨日よりも嬉しそうにレイコさんは我が家へとあがってくださいました。マスターのいらっしゃる居間のほうへと促すと嬉しそうに小走りで駆けていく様は、本当に年相応であり幽霊だと言うことを忘れてしまいそうです。
 少々時間に余裕が無いところですが、少しくらいならばオーバーしても差し支えありませんので、レイコさんには微細ながら楽しんで頂くことと致しましょう。
 それでは、本日もお茶とコーヒーを用意して…………。


「んじゃ悦子、よろしく頼むわねー。打ち合わせ通りで問題無いと思うから」
「はい、畏まりました。が、マスターは……」
「これも仕事のうちでしょ。クライアントの満足があたしたちの満足で売ってる枡田探偵事務所だし。ねー、レイコちゃんもまだ帰りたくないよねー?」
「……そのような理由ならば仕方ありません。それでは行ってまいります。昼食、おやつは冷蔵庫や戸棚に入っているものでお願い致します。レイコさんがいらっしゃるので店屋物でも構いませんが」
「おっ、さすが悦子、気前がいいなー。レイコちゃん、お昼は好きなもの食べようねー。はい、メイドのお姉ちゃんにありがとうしようねー」
「……いえいえ、どういたしまして。それでは行ってまいります」
「いってらっしゃーい。レイコちゃんもメイドのお姉ちゃんにバイバイー。よーし、レイコちゃん、次はどのゲームにしよっか!!」
「お、お姉ちゃん……ふふふ、では、行ってまいりますね」


 楽しそうなマスターとレイコちゃんを尻目に、メイドのお姉ちゃんこと私メイドの悦子はちょっとした荷物を手に取り本日の調査へと向かうこととなりました。
 しかしながらマスターもレイコさんも本当に楽しそうです。さすがにあれほど楽しそうなのを拝見してしまうと、ご帰宅くださいなどとは言いにくいものです。
 かといって、レイコさんも一緒に調査に同行というのはマスターが仰るとおりレイコさんには厳しい現実になってしまう確率が高いのも事実です。
 不確定情報ではありますが、マスターも様々な結果を予想しておられましたし、私もある程度は推測してはおります。なんといっても探偵ですので、推理推測予想夢想は得意です。
 はてさて、推理推測だけでは結論になど達するべくもありません故、とりあえずは第一目的地へと向かうことと致しましょうか。
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